第二百十八段 狐は人に噛みつくものである
狐は人に噛みつくものである
堀川家のお屋敷で、スタッフが寝ている時に足を狐に噛まれたんだ
仁和寺では夜、本堂の前を通る下級の僧侶に、狐が三匹飛びかかって噛みついたので、刀を抜いてこれを防ぎ、その間に狐二匹を突いたのね
で、一匹は突き殺したの
でも二匹は逃げて行ってしまったんだ
法師はいろんなところを噛まれながらも、大事には至らなかったよ
----------訳者の戯言---------
舎人(とねり)というのは、皇族や貴族に仕えて警備や馬、牛車などの担当、雑用をするスタッフです。
キツネに噛まれるって、そもそも人間のほうに何か問題あるんじゃないかと思いますけどね。
たとえばテリトリーを侵してるとかね、人の方が。虐待したとか。
よほど食糧がないとかですね。
何もしてないのにキツネは襲わないでしょう? 普通。
堀川家はもう何度も出てきました。
兼好法師が出家する前、仕えていた家です。
第九十九段で検非違使庁の古い唐櫃を変えさせようとした人、第百七段で女子たちに「無難ね」と褒められた人、第百六十二段で池の鳥を虐殺した僧を捕らえて罰した長官など、おなじみですね。
仁和寺のほうも、徒然草ではおなじみです。
仁和寺の僧侶の中にはとんでもない人、興味深い人がいろいろといたようで。
第五十二段では石清水八幡宮を参拝しようとした僧侶、第五十三段で足鼎っていう鍋みたいなのを被ったら取れなくなった僧、第五十四段はかわいい稚児さんと遊びたい僧侶たちが箱を埋めてサプライズを画策するもすべった話、第六十段の芋頭大好きの盛親僧都など、です。
【原文】
狐は人に食ひつく者なり。堀河殿にて、舍人が寢たる足を狐にくはる。仁和寺にて、夜、本寺の前を通る下法師に、狐三つ飛びかゝりて食ひつきければ、刀を拔きてこれを拒ぐ間、狐二疋を突く。一つはつき殺しぬ。二は遁げぬ。法師はあまた所くはれながら、事故なかりけり。
検:第218段 第218段 狐は人に食ひつくものなり