徒然草 現代語訳 吉田兼好

徒然草を現代語訳したり考えたりしてみる

吉田兼好の徒然草を現代の言葉で書いたり、読んで思ったことを書いています。誤訳や解釈の間違いがありましたらぜひご指摘ください。(序段---冒頭文から順番に書いています。検索窓に、第〇〇段、またはキーワードを入力していただけばブログ内検索していただけると思います)

第百六十二段 遍照寺の雑務係の僧が、池の鳥を

遍照寺の雑務係の僧が、池の鳥を日ごろ飼い慣らしてて、お堂の中にまで餌をまいて、戸を一つあけておいたら、無数の鳥が入り籠って、その後、自分も入り、閉め切って、捕えながら殺してる様子が、恐ろしい感じの物音で、それを聞いた草刈りの子どもが人に知らせたら、村の男たちがいっぱい繰り出してきて、入ってみたら、大きな雁が騒ぎ合う中にその僧が混じってて、鳥たちを床に叩きつけて、絞め殺してたんで、この僧を捕えて、そこから検非違使庁へ突き出したんだ

殺した鳥を首にかけさせて、牢獄に閉じ込められたって
基俊大納言が別当(長官)の時のことだったよ


----------訳者の戯言---------

お坊さんによる猟奇的動物虐待。ホラーですわー。

現代でも、先日、神職にあった人が殺人したりもしましたしね。
あれは猟奇ではなく怨恨、逆恨み的なものと言われていますが。
あれ、今後の神社自体の存亡はわかりませんが、門前町で商売されてる人は、とばっちりもいいとこです。いきなりとんでもないことになって、今後の生活もたいへんでしょう。

閑話休題

検非違使庁は前にも書いたことありますが、当時の警察みたいなものですね。
今のような司法制度はなかったでしょうから、裁判権もあった。
つまり自ずと裁判所、刑務所でもあったのでしょう。
時々出てくる「六波羅探題」も警察的な存在で、この頃は両者が共存していたようですね。
調べてみたら、この時代は六波羅探題のほうが勢力は強かったみたいです。
ただし、この後、鎌倉幕府出先機関だった六波羅探題足利尊氏らに壊滅させられるということにはなるんですが。

今は動物愛護法がありますが、当時はなかったです。当然。
しかし、それ的な裁定が下ったわけですね。
動物愛護法ができたのが1973年ですから、かなり先進的ではあります。
その前に徳川綱吉の生類憐みの令もありましたか。

生類憐みの令は天下の悪法のように言われていますけど、あれはかなり誤解があるようですね。
ま、それも別の話なんですが。

さて、この段で出てくる鳥ですが、雁というのは鴨(カモ)類全体としての総括的な名称であったらしい。
カモ科に属する鳥のうち大形のものの総称とのことです。
ただ、「大雁」と書かれてますから、鴨ではなくて雁なのでしょう。
雁は今は天然記念物ですが、当時は狩りの対象だったし、食用でもあったようですね。

今は動物愛護法がありますし、文化財保護法がありますけど、そんなものはない時代で、しかも食用でもあった頃。
なのに警察に捕まった、ということは相当な残虐性があった、ということでしょうね。
サイコパス的なものかもしれません。
現代なら弁護士が「正常な判断が出来得る状態ではなかった。責任能力無し」として無罪を主張するケースでしょうか。

基俊大納言。
堀川基俊のことです。

第九十九段に少しだけ登場したのがこの人です。この人のお父さん、太政大臣堀川基具がこの九十九段の主人公だったんですが、検非違使庁の古い「唐櫃」を新しいのに変えさせようとして止められたのでした。

第百七段で女子たちに「無難ね」って言われたのは兄の堀川具守のほうです。
「無難」というのは褒め言葉だったんですけどね。

実は兼好は、出家前、兄の堀川具守に家司として仕えていました。
なので、兼好としてはこの堀川家には好意的なはずです。
「唐櫃」の話は、ちょっと恥ずかしい話だけど、ま、ぶっちゃけ遠慮なく書いちゃった、という感じでしょうか。

で、今回。
これも私の想像ですが、かつての主人の弟くん、なかなかやるやないの、という視点ではないかと思います。
鎌倉幕府出先機関である六波羅探題の躍進によって、すでに形骸化していた検非違使庁ではありますが、このような動物虐待をしっかり検挙し裁いている、とね。
それとも、もっと世間的に大きな事件、たとえば殺人や強盗などでなく、このような、動物殺しくらいしか取り扱えない検非違使という存在を嘆いてるのでしょうか。

私はそのどちらでもあるように思います。動物虐待は今も昔もちゃんと裁いてほしいもの。
微力ながらがんばっているのを評価したいな、という気持ちはあるのではないでしょうか。


【原文】

遍照寺の承仕法師、池の鳥を日ごろ飼ひつけて、堂の内まで餌をまきて、戸ひとつをあけたれば、數も知らず入りこもりける後、おのれも入りて、立て篭めて捕へつつ殺しけるよそほひ、おどろおどろしく聞えけるを、草刈る童聞きて、人に告げければ、村の男ども、おこりて入りて見るに、大雁どもふためきあへる中に、法師まじりて、打ち伏せ、ねぢ殺しければ、この法師を捕へて、所より使廳へ出したりけり。殺すところの鳥を頚にかけさせて、禁獄せられけり。

基俊大納言別當の時になむ侍りける。


検:第162段 第162段 遍昭寺の承仕法師