第百五十三段 為兼大納言入道が召し捕らえられて
為兼大納言入道が召し捕らえられて、武士たちが取り囲んで六波羅へ連れて行ったんだけど、(日野)資朝卿は一条あたりでこれを見て、「ああうらやましい。この世に生きた思い出は、こんな感じでありたいもんだよねえ」と言われたんだ
----------訳者の戯言---------
何もないよりは。
と、資朝卿、なかなか素敵なセンスです。
六波羅は六波羅探題のことで、鎌倉幕府の出先機関だったので、警察のような側面があったようですね。
刑事警察だけじゃなく、今で言う公安警察的な存在でもあったのでしょう。
過去に承久の乱などというクーデターもありましたし、為兼が仕えた伏見天皇も倒幕に動いたとされています。
怪しい動きのある公家を捕らえてしょっ引いた、ということですね。
日野資朝も同様に後年、倒幕計画が露見し六波羅探題に捕らえられて、佐渡へ流刑となっています。
この段のお話の時は、本音で「ちょっとかっこいい」「憧れる」と思ったのかもしれないし、気概を感じたのでしょう。
【原文】
爲兼大納言入道 召し捕られて、武士ども打ち圍みて、六波羅へ率て行きければ、資朝卿、一條わたりにてこれを見て、「あな羨し。世にあらむ思ひ出、かくこそ有らまほしけれ」とぞいはれける。
検:第153段 第153段 為兼大納言入道召し捕られて